大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形地方裁判所 平成6年(ワ)22号 判決 1999年12月07日

原告 阿子嶋八郎

<他9名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 佐藤欣哉

同 外塚功

同 山上朗

被告 西置賜行政組合

右代表者管理者 目黒栄樹

右訴訟代理人弁護士 髙橋敬一

右指定代理人 板垣健一

<他3名>

被告 株式会社 丸三商会

右代表者代表取締役 松本大介

右訴訟代理人弁護士 安部敏

主文

一  被告らは、連帯して、原告らに対し、別紙損害明細表認容額欄記載のとおり、当該原告の認容額欄記載の金額及びこれらに対する平成二年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告らに対し、別紙損害明細表請求額欄記載のとおり、当該原告の請求額欄記載の金額及びこれらに対する平成二年六月一二日から支払い済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、大量のアルミニウム屑が保管されていた被告株式会社丸三商会(以下「被告会社」という。)の倉庫において火災が発生し、さらに被告西置賜行政組合(以下「被告組合」という。)が消防活動をするに際して右アルミニウム屑に注水したところ、大爆発事故を招来し、原告ら近隣住民の家屋等に損害を与えたとして、被告会社に対しては、民法七〇九条、七一五条及び失火ノ責任ニ関スル法律(以下「失火責任法」という。)に基づき、被告組合に対しては国家賠償法一条に基づき、共同不法行為による損害賠償及び遅延損害金を請求する事案である。

一  争いがない事実

1  当事者

被告会社は、廃品回収業及び再生資源卸売業を主たる営業内容とする会社であって、当時、長井市幸町一三番一九号所在の幸町営業所に作業所及び廃品置場を設け、金属製廃品等のプレス、切断、分解等の作業を行っていた者である。

被告組合は、長井市、白鷹町、飯豊町、小国町により構成される地方自治法上の一部事務組合である。

原告らは、被告会社の近隣に居住する者である。

2  本件出火の経緯

被告会社の従業員井上秀吉(以下「井上」という。)は、平成二年六月一二日、被告会社幸町営業所のアルミニウムを保管する倉庫内(以下「アルミ倉庫」という。)において、ショベルローダーを移動させていたが、その際、アルミのパーマネント状の屑(以下「アルミパーマ」という。)がショベルローダーのバッテリーに接触し、バッテリーがショートしたことから発火し、これに起因して倉庫内で火災が生じた(以下「本件失火」という。)。

被告組合の消防本部(以下「本件消防本部」という。)は、被告会社からの一一九番通報により出動し、注水活動を開始した。

注水開始後、午前一一時過ぎから、アルミ倉庫において、爆発が繰り返し発生し、同二三分、同五〇分、同五二分の三回にわたり大規模な爆発が発生し、爆発音とともに炎の塊が付近住宅に飛び散り、住宅等が燃え始めた。

(以下三回の爆発を順次、「第一回爆発」「第二回爆発」「第三回爆発」といい、これらを総称して「本件爆発」という。)。

二  争点

1  被告組合の行為について、失火責任法の適用があるか(失火責任法の適用)。

2  被告組合は、消火活動に当たり、被告会社から燃焼物の種類、危険物の有無について情報収集を尽くしたか(被告組合の責任)。

3  本件失火について被告会社に失火責任法の重過失があるか(被告会社の責任)。

4  原告らの損害の有無及びその額(原告らの損害)。

三  争点に対する当事者の主張

1  争点1(失火責任法の適用)について

(一) 原告らの主張

本件被害は、失火によってもたらされたものではなく、被告組合の注水による消火活動によってもたらされたものであるから、その消火活動上の過失に失火責任法の適用の余地はない。

(二) 被告組合の主張

当初の失火そのものが火薬等の爆発による場合は、失火責任法が適用されないとしても、失火が通常の火災であり、その延焼の過程で誘爆させたのであるから、失火責任法が適用されると解すべきである。

2  争点2(被告組合の責任)について

(一) 原告らの主張

(1) 被告組合の金田寿一消防課課長補佐(以下「金田補佐」という。)は、注水開始前に本件火災現場に到着し、アルミ倉庫を見分していたのであるから、山積み状態のアルミニウム屑が内部で燃焼していたことは当然視認できたはずである。また、金田補佐は、アルミ倉庫の西側に隣接する倉庫(以下「西側倉庫」という。)も見分していたのであるから、西側倉庫内に大量に保管されているアルミニウム屑を視認できたはずであるから、隣接するアルミ倉庫にも、アルミニウム屑が存在していることを疑い、被告会社従業員に対しアルミ倉庫内部の燃焼物の種類について説明を求めるべきであった。

本件の燃焼物は、大量のアルミニウム屑であったから、金田補佐及び松林廣消防長(以下「松林消防長」という。)が、被告会社代表取締役松本大介(以下「松本社長」という。)や被告会社従業員に対し適切な問いを発すれば、消火開始時点前後までには、燃焼物がアルミニウム屑であること及びアルミ倉庫には他にも大量のアルミニウム屑が存在していることを認識できたはずである。

そうであるにもかかわらず、金田補佐は、被告会社の従業員に対して危険物の有無を尋ねるのみで、燃焼物の種類について説明を求めなかった。

アルミニウム火災の場合に絶対に水をかけてはならないことは、消防学校の初任課研修の講義内容にあり、消防職員にとって常識的知識といえること、松林消防長は、過去にトンネル内での車両火災の際、アルミの窓枠がトラックに積まれていたので自然鎮火を待った経験を有していたことから、被告組合においては、アルミ倉庫に大量のアルミニウム屑が保管されていることを認識していれば、これに対し注水することは爆発を誘引する危険なものであることを容易に認識できた。

しかし、被告組合は、これらの義務を怠り、安易にアルミ倉庫内に大量の注水をした結果、本件爆発事故を誘発させたものであり、その過失責任は明白である。

(2) 被告組合は、注水開始から第三回爆発までの間、アルミ倉庫に向けての注水を継続していた。松林消防長は各隊長に対し、遠方からアルミ倉庫の屋根に向けた放物線上の注水及び倉庫内の未燃焼部分に対する注水を指示したものであり、爆発回避という観点からは、無意味な回避措置であった。

(二) 被告組合の主張

(1) 被告会社の出火建物であるアルミ倉庫は、本件消防本部の査察対象物には該当していなかったこと、被告会社から消防法上の危険物について届出がなかったこと、西置賜行政組合火災予防条例で定める少量危険物、指定可燃物の届出もなかったことから、本件消防本部は、被告会社の取扱物集積物の種類、数量についての情報を有していなかった。

また本件火災の際の一一九番通報も、一般建物火災としての通報であり、アルミニウム屑の存在についての情報提供がなかった。

現場到着した消防隊員らは、現場の燃焼物を確認したがスクラップ様のものの燃焼と思われ、被告会社従業員等から情報収集活動を開始したが、危険物はないとの返答があるのみで、本件爆発の原因に結びつくような有効な情報を収集できなかった。

(2) 既に火災が発生した状況では、切削油がアルミニウム屑に付着していることを目視確認することは困難であった。アルミニウム屑表面の切削油が燃焼している状況は、火災初期の目視では黒く見えるだけであり、あたかもぼろ布が燃焼しているのと同様であり、消防隊としては、これら切削油の付着したアルミニウム屑の存在を認知できなかったし、認知できる状況になかった。

(3) 松林消防長は、消火活動にもかかわらず容易に鎮火しない状況、午前一一時三分ころ小規模の爆発音が発生し、外壁が吹き飛ばされたことから、各隊長に対し、出火点への直接注水の中止、消防隊員の後退及び周囲の冷却注水への切替を指示したため、同六分ころには火元への直接注水は中止され、出火点周囲に対する冷却注水に切り替えられた。第一回爆発後、すべての消防隊は、第一回爆発により類焼したアルミ倉庫南側建物の消火活動に専念した。このように、被告組合は、限定された時間と情報の中で最善の消火活動を行ったものである。

(4) 前記(3)のように、本件爆発が消防隊の注水中止後に発生したものであるとすれば、本件爆発は、溶融アルミに消火活動の注水が直接接触したために発生したものではなく、爆発以前に注水した水が倉庫床面に残存し、これに溶融アルミが崩れ落ちるなどして接触し、水蒸気爆発等を生じたものと考えられる。そうすると、本件爆発を回避するためには、床面に残存した水が発生しないことが必須となるが、そのためには一切直接注水を行わないとか、あるいは、周辺にも一切注水せず火元の倉庫床面への水の侵入を防止する必要がある。しかし、このように放置した場合、爆発という結果は阻止し得たとしても、原告ら周辺家屋に対する類焼を回避することはできないというべきである。

(5) 消防の消火活動は、一刻も争うのであって、現場到着後直ちに注水を開始するのが通常であり、一見明白に注水が危険であると判断されない限り、注水と同時並行して情報収集を行い、最善の消火方法を探知せざるを得ない。本件では、仮に被告会社から適切な情報が与えられたとするならば、実際よりももっと早期に火元への注水を停止できたであろうが、それでも、全く注水しないという一見明白に危険な状況ではなかった。

しかし、アルミニウムが接触した倉庫床面の水量は、非常に短期間の初期消火活動の注水によってもたらされただけでも爆発には十分な量である可能性があるから、適切な情報が与えられたとしても、本件爆発という結果の回避可能性はなかった。

(6) 本件爆発の原因は、火災拡大に伴い生じる高温の溶解したアルミニウムに消火のための水が接触し、アルミニウムと水との急激な化学反応による酸化還元反応熱及び水素ガス発生による着火爆発、又は、水が急速に熱せられたために生じた熱移動型の水蒸気爆発等が推定される。

被告組合の責任を肯定するためには、本件爆発について極めて容易に予見及び回避が可能であるのにこれを怠ったといえる場合でなければならないが、前記のような複雑なメカニズムによる爆発を限られた情報の中で短時間に予見することは、極めて困難であり、また溶融したアルミニウム屑に接触した水量も不明であるから、注水をどの時点で中止すれば、本件爆発を回避できたのかも不明である。

3  争点3(被告会社の責任)について

(一) 原告らの主張

廃品回収業者である被告会社は、アルミニウムを適切に管理すべき義務があるのにもかかわらず、アルミ倉庫内に、消火設備もないまま大量のアルミニウム屑、金属類その他可燃物などを混然として散在させた状態で山積みにし、右管理義務を著しく怠り、かつ防火訓練も実施していなかった。

被告会社は、前記管理状況の下で、右危険状態を十分知る井上にバッテリーにカバーをしていないショベルローダーを操作させ、失火させたものであり、被告会社及び井上の右行為には、重過失が認められる。

原告らの損害は、右失火に起因する。

(二) 被告会社の主張

(1) 被告会社が、アルミニウムについて、安全に配慮した適切な管理を怠っていたことは争う。被告会社が保管していたアルミニウム屑等は消防法で危険物と指定されている金属粉には当たらない。

(2) ショベルローダーのバッテリーにアルミパーマが接触してショートし、発火することは、被告会社及び井上にとって容易に予測できることではなく、井上に著しい注意の欠如があったとはいえない。

(3) 本件火災の発生状況及び原告らの住宅と火災発生現場の位置関係から、もし適正な消火活動が行われ本件爆発が起こらなければ、通常原告らに損害を与えることはなかったはずである。本件爆発の原因は、もっぱら被告組合の誤った消防活動にあるから、本件失火と原告らの損害との間に因果関係はない。

また、被告会社及び井上において、消防活動が原因で本件爆発が発生し原告ら周辺住民に損害を与えることは、通常予見できることではないから、本件失火と原告らの損害との間に相当因果関係はない。

第三争点に対する判断

一  前記の前提事実、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告阿子嶋八郎、同阿子嶋志を(以下「原告阿子嶋志を」と表記する。)、同阿子嶋勉、同阿子嶋千寿子は、平成二年六月一二日当時、山形県長井市幸町一二番一八号において原告阿子嶋志を所有の家屋に居住し、原告梅津則雄、同梅津蝶子は、同日当時、同町一四番一六号において、原告梅津ら所有の家屋に居住し、かつ右家屋の一部を店舗として使用し、原告江川正美、同江川江美子は、同日当時、同町一四番二二号において居住し、原告佐竹正行、同佐竹富士子は、同日当時、同町一四番二二号において居住していた。

2(一)  平成二年六月一二日の天候は、晴れ、風向き南二・五m、気温二六度、湿度三八%であった。

(二) アルミ倉庫は、鉄骨造平家建て、外壁はサイディング貼り、屋根は長尺トタン葺きで、床面積は一二八・六九m2である。アルミ倉庫の北側は、外壁がなく解放された状態である。西側倉庫は、L字型の鉄骨造り平家建て倉庫であり、外壁はサイディング貼り、屋根は長尺トタン葺きで、アルミ倉庫と平行している部分の北側及び他方の東側は、外壁がなく解放された状態である。

アルミ倉庫南側には、道幅約四・七mの道路を隔てたところに材木屋及び原告佐竹ら及び同江川ら居住の一般家屋が軒を連ねていた。

幸町営業所の敷地には、数ヵ所に廃車や鉄屑が山積みの状態になっていた。

(三) 被告会社で収集する廃品は、廃車した自動車類、タイヤ類、鉄屑、缶詰、空のドラム缶、古新聞、古雑誌、衣類、銅線、アルミニウム屑(アルミパーマ、アルミ切粉、アルミ粉、アルミ箔、アルミ削粉、切屑アルミサッシ類)であった。被告会社は、これらを収集し、それを県内外の各加工業者や精錬所に販売していた。アルミパーマは、旋盤等でアルミを削るときに出る長さ平均三〇cm、幅が五mmから一cmのアルミニウム屑である。アルミ切粉は、旋盤等でアルミを削るときに出る長さ約一cm、幅約一mmのアルミニウム屑である。アルミパーマ及びアルミ切粉には、手に触れるとべた付く程度の切削油が付着していた。アルミ粉は、研磨などアルミニウム製品を仕上げる過程で出る粒状の屑である。被告会社は、アルミ倉庫内に、アルミ切粉、アルミパーマ、アルミ箔をプレスしたもの及びアルミ削粉を置いていた。また、廃車から抜き出したガソリンは、一斗缶に入れ、これを外に放置し、同じく抜き出したエンジンオイルは、地面に垂れ流していた。

アルミニウムが消防法上危険物として取り扱われるためには、目開きが一五〇マイクロメートルの網ふるいを通過する量が五〇%を超える必要があるところ(消防法別表備考第五号、危険物の規制に関する規則第一条の三第二項)、被告会社が収集していた右アルミニウム屑は、消防法上の危険物に該当しないものであった。

被告組合の職員は、被告会社に出動や査察をしたことはないものの、被告会社が廃品回収業を営んでいることを知っていた。

(四) 松本社長は、昭和六一年ころ、アルミ箔の収集を開始したとき、井上に対し、アルミ箔は水に触れると熱を持つから気を付けるよう注意したことがあった。井上自身も、平成元年の冬ころ、雪が建物の隙間から入り込み、プレスしたアルミ箔に付着し、そのままの状態でプレス機械に入れ、積み置いたところ、白い煙が発生し、熱を生じたことを経験した。ただ、アルミパーマやアルミ切粉については、水に触れても危険であるとの認識は持っていなかった。ただし、アルミパーマは、機械油が付着しているため、被告会社の従業員は、アルミパーマが燃えやすいことであることは、一〇年以上前から知っており、その付近ではたばこを吸わなかった。

3  井上は、平成二年六月一二日午前七時(以下時刻のみの表示は、平成二年六月一二日を示す。)に出社し、午前七時三〇分ころまで、収集したアルミパーマ約三〇〇kgをトラックからアルミ倉庫へ荷下ろしした。荷下ろししたアルミパーマは、アルミ倉庫内中央に、高さ約一m五〇cm、幅二m五〇cm、長さ四mの状態で置かれていた。アルミ倉庫には、そのほか、西端にアルミ切粉が約七トン、アルミパーマの東側にアルミ切粉が約二トン、東端にアルミパーマが約一五〇〇kgあった。

井上は、本間商店がアルミ倉庫のアルミ切粉を引き取りにくることを知らなかったので、その日の作業が終了してから、右アルミパーマを整理しようと考えていた。

4  本件失火

本間商店の本間幸助(以下「本間」という。)は、午前一〇時ころ、アルミ倉庫前に四トントラックを停車させ、アルミ倉庫内のアルミ切粉を引き取りに来たので、井上は、それまで行っていた廃車をつぶす作業を中止し、アルミ倉庫内において、ショベルローダーでアルミ切粉をトラックに積み込むことにした。ショベルローダーを道路で運転する場合、大型特殊免許を要するが、井上は右免許を取得していなかった。また、工場内でショベルローダーを運転する場合は、労働基準監督局で行う車輛建設機械の操作の技能講習を受ける必要があるが、井上はこのような講習を受けていなかった。

アルミ倉庫東側には、前記アルミパーマがアルミ倉庫の床に広がった状態で置かれていたので、井上は、ショベルローダーの作業スペースを確保するため、アルミパーマを壁際まで押し込んでから、アルミ切粉の積み込み作業を開始した。

午前一〇時三〇分ころ、トラックの荷台が山になったので、本間商店が均す作業をすることにした。そのため、井上は、一時右積み込み作業を中断し、その間アルミ箔のプレス作業をすることにし、ショベルローダーを後方に移動させたところ、アルミパーマの山が崩れ、ショベルローダー右側のバッテリー上に落下し、バッテリーがアルミパーマで埋まってしまった。右側のバッテリーは、少なくとも本件より一か月以上前にバッテリーを交換して以来カバーを取り外したままであり、剥き出しの状態であったため、バッテリーのプラス端子とマイナス端子が通電し、ショートしたことから発火し、切削油が付着していたアルミパーマに引火させた。当初の炎は、青白い色を放ち、薄い煙を出していた。

井上は、他の従業員とともに、アルミ倉庫やその付近にあった四本の消火器で消火しようとしたが、消火に至らなかった。被告会社は、廃品として回収した三本の消火器及び廃品の消火器から取り出した消火剤を保管していたが、有効期限のある消火器を配備していなかった。被告会社が保管していた消火器及び消火剤は、粉末が湿気を含むため、凝縮するなどし窒息効果は相当程度低いものであった。被告会社にはそのほかに消火設備がなく、防火訓練も実施したことがなかった。

松本社長は、被告会社従業員佐藤幸子に対し、一一九番通報を指示し、同人は、午前一〇時四一分一一九番通報をし、本件消防本部に対し、丸三商会の小屋が燃えたとだけ告げた。

5  注水開始

(一) 本件消防本部は、第一ないし第三小隊を出動させ、松林消防長、金田補佐を乗せた指令車及び第二、第三小隊は、午前一〇時四三分ころ現場に到着した。

(二) 土屋日郎夫中隊長(以下「土屋中隊長」という。)は、第二小隊に対し注水を指示した。第二小隊は、同四四分ころ、アルミ倉庫南側外壁を破壊し、ここからアルミ倉庫内部に注水した。第二小隊の隊員は、このときアルミ倉庫内部に金属屑が山積みされていたことを確認したものの、これを中隊長に告げることなく注水を行った。

(三) 第三小隊は、被告会社西側入り口から入り、アルミ倉庫の北側から注水し、第一小隊は、午前一〇時四六分ころ現地に到着し、アルミ倉庫東側の畑から注水した。

6  現場の目視及び事情聴取

(一) 金田補佐は、現場到着後すぐにアルミ倉庫北側から内部を見分したが、黒煙及び炎がアルミ倉庫全体に広がっていたため、燃焼物件の種類を明確には確認できなかった。

(二) 本件消防本部の職員は、午前一〇時四三分ころ、現場に到着し、警察官と共にアルミ倉庫前に行き、井上に対し危険物の有無について尋ねたところ、ないと答えた。右職員は、井上に対し、燃焼物件の種類について尋ねようとしなかった。

(三) 本間は、消防隊員が最初に到着したころ、本件消防本部の職員に対し「パーマが燃えている」と言い、さらに水蒸気爆発を起こす可能性があることを示唆した。

(四) 土屋中隊長は、注水開始後、被告会社従業員に燃焼物を尋ねたところ、同人は、段ボール、廃車から取り出されたガソリン、軽油などの廃油関係であると回答した。

7  小爆発発生及び直接注水中止

(一) 午前一一時過ぎころから、アルミ倉庫南側から、黒煙の中に黄色味がかった煙が吹き出し、溶岩のようなどろどろした物体が、地面一体に流れ、時々周囲数メートルに飛び散った。土屋中隊長は、この様子を松林消防長に伝えた。

(二) 土屋中隊長は、アルミ倉庫に対し注水活動を行っている第二、第三小隊隊員に対し、出火点周囲には注水せず、アルミ倉庫南側住宅への延焼防止防御に当たるよう指示した。第一小隊隊員も、注水中に、「パン」という小規模爆発音及び三〇から四〇cmの大きさの青白い炎を数回確認したので、途中から、出火点への直接注水を中止し、周囲への注水に切り替えた。

(三) 松林消防長は、午前一一時五分ころ、各小隊長及び中隊長を、現場本部に呼び寄せ、出火点付近から小規模の爆発現象が起きているため、消防隊員の安全確保のため注水位置を後退させ、アルミ倉庫出火点への注水を中止させ、出火点周辺すなわち周辺建物への冷却消火を指示した。

この点、原告及び被告会社は、被告組合の消防隊員らが第一回爆発後も遠方からアルミ倉庫の屋根、アルミ倉庫内の未燃焼部分に対し注水作業を継続していたと主張し、証人井上、原告梅津則雄本人もこれに沿う供述をするが、前記及び後記認定に照らし、にわかに採用することができない。また、原告は、甲二四、二五のビデオには被告組合が第一回爆発後の午前一一時四〇分ころも、アルミ倉庫に対し注水している様子が撮影されていると主張するが、右ビデオには、アルミ倉庫の南側建物や西側倉庫に注水した様子しか撮影されておらず、これが被告組合の消防隊員が出火点に対し直接注水したことを裏付けるものであるとはいえない。

8  第一回爆発

午前一一時二三分ころ、第一回爆発が発生し、溶解燃焼中のアルミニウムの塊が周辺に飛散し、周辺家屋が延焼し始めた。

本件消防本部は、第一回爆発後、アルミ倉庫から半径一〇〇m以上の警戒体制をとった。

9  松林消防長は、土屋中隊長らに対し、爆発の原因は熱せられた金属粉又はアルミニウムが水と化学反応を起こし爆発したものであることを伝え、消防隊員の安全確保及び見物者の避難を命令した。

第一小隊から第三小隊は、第一回爆発により類焼したアルミ倉庫南側の建物の消火に当たった。

午前一一時五〇分、五二分ころの二回にわたり第二回、第三回爆発が発生し、大音響とともに火柱があがり、第一回爆発と同様溶解アルミニウムの塊が爆風とともに付近一帯に飛散した。

本件消防本部は、第二回爆発後、アルミ倉庫から半径二〇〇m以上の警戒体制をとった。

火災は、午後二時ころほぼ鎮火状態となり、午後二時一九分ころ鎮火した。

本件爆発及びその後の類焼により、負傷者は、重傷一名、軽傷二二名の合計二三名(そのうち、被告組合の消防隊員は重傷一名、軽傷二名、消防団員は軽傷一二名)であった。

本件火災により、原告阿子嶋ら、同江川ら、同佐竹らの家屋など隣棟建物住宅七棟約一二八〇m2、非住居一三棟約八〇〇m2の合計二〇八一m2が全焼し、非住居一棟一五二m2が半焼し、車両五台を焼失した。また、本件爆発により、付近の住宅約二二八世帯、学校、自動車等のガラス約一二七六枚が破損し、アルミ倉庫を中心として半径約五二〇mに全体的に北東側の被害が広範囲に及んだ。

二  本件爆発の原因

前記認定事実及び《証拠省略》によれば、本件爆発の原因については、火災により溶解したアルミニウム屑に消火のための水が接触し、アルミニウムと水との急激な化学反応による酸化還元反応熱及び水素ガスの発生による着火爆発、又は、水が急速に熱せられたために生じた熱移動型の水蒸気爆発であると認められる。

なお、アルミパーマに付着した切削油は水分を含有し、その重量はアルミ倉庫全体で切削油の約二倍と推定されるので、本件爆発の原因と考えられなくもないが、切削油の燃焼による発熱量は、性状が類似するメタノールと同程度とすると、約五二〇〇cal/gであると考えられる。他方、水の気化熱が五三九・四cal/gであるから、切削油は約九倍程度の量の水分を燃焼による発熱で気化しうる。したがって、本件の切削油に含有された大部分の水分は切削油自身の燃焼により気化したといえるから、これが高温で溶解したアルミニウムとの激しく化学反応を起こす機会があったとはいえない。

三  争点1(失火責任法の適用)及び同2(被告組合の責任)について

1  前記認定によれば、本件爆発の原因は、被告組合が午前一一時過ぎころまでアルミ倉庫内部に注水をしたため、水がアルミニウム屑と化学反応を起こし水素爆発を起こしたか、あるいは熱せられた水が水蒸気爆発を起こしたものであると考えられる。

2  本件爆発の原因である被告組合の注水行為について失火責任法の適用があるか検討するに、失火責任法にいう失火とは、「誤テ火ヲ失シ火力ノ単純ナル燃焼作用ニ因リ財物ヲ損傷滅燼セシメタル」ことをいうから(大判大正二年二月五日民録一九号六一頁参照)、火を失した者が延焼の過程でガスなどを誘爆させた場合と異なり、本件のように、当初の失火とその後の延焼に至る因果の過程から別個独立した第三者の行為があって初めて爆発と爆発自体による財産的損害が生じた場合には、右第三者の行為は失火にはあたらないというべきである。

したがって、本件における被告組合の注水行為には失火責任法の適用がないというべきである。

3(一)  消防法二五条によれば、火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、当該消防対象物の関係者その他命令で定める者に対して、当該消防対象物の構造、救助を要する者の存否その他消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のため必要な事項につき情報の提供を求めることができると規定する。

(二) 《証拠省略》によれば、アルミニウムは、熱水と反応しやすく、熱を分解して水素を発生させること、特にアルミニウム粉は、火源が存在すれば比較的短時間で着火、独立燃焼を始め、これに水をかけると激しく反応し、発生した水素ガスが爆発的燃焼を起こすこと、アルミニウム火災の燃焼速度は比較的遅く、初期の段階で正しい反応をすれば大事に至らないこと、消火方法は、液体洗剤による冷却消火、乾燥砂、塩による窒息消火が適当であり、それ以外としては、自然鎮火を待つべきであり、注水は危険であり行うべきでない消火方法であること、アルミニウムのような活性金属火災に対する消火方法は、消防学校の初任課で学習する内容にあり、消防署職員の必修事項であることが認められる。

(三) したがって、一一九番通報の内容、燃焼物件の観察、周囲の者に対する事情聴取等によって、燃焼物件が金属屑であることが判明した場合には、注水に適さない燃焼物件である可能性があることを察知し、注水が安全か否かを確認するまではこれを中止すべき義務があるというべきである。

4  これを本件についてみるに、前記認定のとおり、被告組合の職員は、被告会社が火災現場において廃品回収業を営んでいることを事前に知っており、本件失火の際にも、第二小隊の隊員は、アルミ倉庫に金属屑が山積みされているのを現認し、また、本件消防本部の職員は、本間から、水蒸気爆発を起こす可能性のあるパーマが燃えている旨を聞き及んでいたのであるから、本件消防本部にこのような情報が集約されていれば、現場到着後比較的早い段階で、少なくとも金属火災の可能性を疑って、注水待機又は注水中止の指令がなされてしかるべきであったし、本件消防本部において金属火災との疑いをもって井上等被告会社の者に金属屑の存否及びその種類如何と右具体的な質問を発して事情を聴取し、あるいは燃焼物件の確認を慎重に行っていれば、大量のアルミニウム屑の山から出火していることを容易に知り得たというべきである。

しかるに、第二小隊の隊員は、金属屑の存在を本件消防本部に連絡せず、本件消防本部の職員にもたらされた本間からの情報も軽視ないし無視され、被告組合は、小規模の爆発現象が生じるまで漫然と注水を開始・継続したものであり、この点において過失があるものといわざるを得ない。

5  なお、被告組合は、本件爆発について予見可能性がなく、また、注水しなければ、本件爆発は回避できたとしても、原告ら周辺家屋への類焼等の結果発生は回避し得ないと主張するが、前記認定のとおり、アルミ火災の消火方法が消防署職員の必修事項であることからすれば、注水による本件爆発は予見できたといえるし、前記認定の気象条件、出火点と原告ら家屋との位置関係(いずれも被告会社幸町営業所とは道路を隔てた区画にあり、アルミ倉庫に最も近い原告佐竹らの借家であっても、出火点から約七m離れている。)、被告組合の消防隊の現場到着が本件失火の約一三分後と早期に出動していること、少なくとも第一回爆発までは原告佐竹らの借家には延焼していなかったと認められることからして、自然鎮火を待つのは危険だとしても、出火点に対しては、速やかに前記3(二)の消火方法を講じ、その後周囲に対して適宜に消火活動を行っていれば、原告ら家屋への類焼は十分に防げたものと推認することができるのであり、被告組合の右主張は採用できない。

6  以上により、被告組合は、本件爆発により生じた後記損害を賠償する責任がある。

四  争点3(被告会社の責任)について

1  ショベルローダーを金属屑付近で運転する場合は、バッテリー端子に金属屑が降りかかるなどしてバッテリーがショートしないよう、バッテリーにカバーを取り付けバッテリーの端子に金属屑が触れないよう配慮すべき義務があるというべきである。

前記認定の被告会社の防火体制、ガソリン等の可燃物の管理体制、被告従業員に対するショベルローダーの運転技術の指導体制は、極めて不十分であったといわざるを得ない。

また、前記認定によれば、被告会社はアルミ倉庫及び西側倉庫に大量のアルミ屑を山積みの状態で保管し、些細なことでこれが崩れ落ちる危険性があり、これを容易に認識し得たといえる。

したがって、バッテリーカバーを外したままショベルローダーを運転すれば、その上に金属屑が降りかかることによりバッテリーがショートすることは容易に認識し得たといえ、右状態での運転は多大な危険を伴うものであるといえる。さらに、井上はアルミ屑には切削油が付着していたことを知っていたのであるから、ショートにより火花が散れば、右切削油に引火することも容易に認識し得たといえる。

このように、被告会社の日頃の防火体制、可燃物の管理体制、従業員に対する監督体制及び本件失火に至るまでの一連の行為には、業務上の注意義務違反があるといえ、かつその違反の程度は重大であり、失火責任法所定の重過失にあたるといわざるを得ない。したがって、被告会社は本件失火による損害賠償責任を負うというべきである。

2  相当因果関係

失火の過程で被告組合の注水行為が介在しこれにより損害が拡大したとしても、前記認定のとおり、本件失火は一般火災と異なり、一つ消火活動を誤れば大規模な被害を引き起こしかねない種類のものであるから、被告組合の消火活動が介在したことの一点をもって、本件失火と原告らの損害との間に相当因果関係がないとはいえない。

3  以上から、被告会社は、本件爆発により生じた後記損害を賠償する責任がある。

そして、被告組合の前記過失行為及び被告会社の前記重過失行為は、既に認定したところから明らかなように、発生した損害との関係で客観的に見て一体性があると評価できるので、右各行為は、共同不法行為の関係に立つと解される。

五  争点4(原告らの損害)について

1  原告阿子嶋八郎の財産的損害 三〇万円(請求額 七〇万円)

《証拠省略》によれば、原告阿子嶋八郎は、本件爆発当時、自宅所有地内に車庫及び物置を所有していたこと、本件爆発によりこれらが全焼したこと、右車庫及び物置は、昭和四七年に建築され、建築費七〇万円を要したことが認められる。

右車庫及び物置の時価は、右築後年数から、三〇万円とするのが相当である。

したがって、原告阿子嶋八郎の本件爆発による財産的損害の額は、三〇万円である。

2  原告阿子嶋志をの財産的損害 三四〇万円(請求額 三四〇万円)

《証拠省略》によれば、原告阿子嶋志をは、本件事故当時、長井市幸町一四九六番に、木造二階建て居宅(床面積一階一三五・五七m2、二階三三・一二m2。以下「建物(一)」という。)を所有していたこと、建物(一)は本件爆発により全焼したこと、建物(一)の再調達価格は、昭和四四年六月に建築された部分を二八〇万円、昭和五三年九月に建築された部分を一二六〇万円とするのが相当であること、原告阿子嶋志をは、安田海上火災株式会社から火災保険金八五二万二〇〇〇円の支払いを受けたことが認められる。

したがって、原告阿子嶋志をの本件爆発による財産的損害の額は、請求額の範囲内である三四〇万円とするのが相当である。

3  原告阿子嶋勉の財産的損害 一二〇〇万円(請求額 二四一九万円)

《証拠省略》によれば、本件爆発によりその居宅である建物(一)が全焼し、原告阿子嶋勉は内部に保管していた家財一切を焼失したことが認められる。

《証拠省略》によれば、原告阿子嶋勉は、本件爆発当時四二歳であったこと、本件爆発当時の同居家族は、同人のほか五名であり、そのうち未成年が二名であることが認められ、右家族構成を元に甲四三の家財簡易評価表(時価用)を参考に右家財の時価を算出すると、一二〇〇万円とするのが相当である。

この点、原告阿子嶋勉は、本件爆発により時価二〇〇万円の宝石を焼失したから、これを別途評価すべきであると主張し、それに沿う《証拠省略》もあるが、乙一八の2の記載内容に照らすと、時価二〇〇万円の宝石の焼失を直ちに認めることができず、原告の右主張は採用できない。

したがって、原告阿子嶋勉の本件爆発による財産的損害の額は、一二〇〇万円とするのが相当である。

4  原告阿子嶋千寿子の財産的損害 一一万円(請求額 一一万円)

《証拠省略》によれば、原告阿子嶋千寿子は、本件事故当時、山形県長井市所在の株式会社ハヤタ製作所に勤務し、一か月約一一万円の給与を得ていたこと、本件爆発によってその居宅及び家財を失い、当面の生活環境の整備に専念せざるを得ず、本件爆発から一か月間右会社に稼働することができなかったことが認められる。

したがって、原告阿子嶋千寿子の本件爆発による財産的損害の額は、一一万円とするのが相当である。

5  原告梅津則雄の財産的損害 一二八九万円(請求額 一六一三万円)

(一) 家屋損害 九五〇万円(請求額 九五〇万円)

《証拠省略》によれば、原告梅津則雄は、長井市幸町一五五九番地四、一五五九番地五に木造二階建て居宅兼店舗(床面積一階一一九・九〇m2、二階二〇・七〇m2。以下「建物(二)」という。)について持分三分の二を共有していること、本件爆発後も引き続き居住しているものの、本件爆発の爆風により建物(二)全体が浮き上がり、その結果基礎コンクリートに埋設されていたアンカーボルトが引き上げられ、土台の枠が基礎コンクリートから離れ、建物全体に構造上のゆがみが生じていること、建物(二)は、昭和五九年八月に代金約二〇〇〇万円で新築したものであることが認められ、以上の事実から、本件爆発当時の残価は少なくとも一四二五万円を下らないことが認められる。

したがって、建物(二)損傷に関する損害額は、その三分の二である九五〇万円とするのが相当である。

(二) 小屋の損害 九万円(請求額 九万円)

《証拠省略》によれば、原告は自宅敷地内に小屋を所有していたこと、本件事故により窓ガラスが割れ修理に九万円を要したことが認められる。

(三) 家財備品等の損害 三〇〇万円(請求額 四八四万円)

《証拠省略》によれば、原告梅津則雄は、本件爆発の衝撃により建物(二)内に保管していた家財、店舗備品及び音響機材を損傷したことが認められ、これらの損害は三〇〇万円とするのが相当である。

(四) 休業損害 〇円(請求額 一〇〇万円)

原告梅津則雄本人によれば、同人は、本件爆発により、飲食業及び音響機材サービス業の一時休業を強いられたことが認められるものの、同人が本件爆発以前に右各営業所により利益を得ていたこと及びその額について何ら立証がないから、これによる損害を認めることはできない。

(五) 車両損害 二〇万円(請求額 二〇万円)

《証拠省略》によれば、原告梅津則雄は、本件爆発によりその所有する車両について損傷を受け、その修理費として二〇万円を要したことが認められるから、これを損害とするのが相当である。

(六) 後かたづけ費用 一〇万円(請求額 五〇万円)

原告梅津則雄本人によれば、同人は本件爆発により損壊した自宅内及び敷地内の後かたづけのため他人の援助を受けたことが認められ、そのために原告が支出した金額のうち相当因果関係があるものは、一〇万円と認めるのが相当である。

(七) 以上から、原告梅津則雄の本件爆発による財産的損害の額は、一二八九万円である。

6  原告梅津蝶子の財産的損害 四七五万円(請求額 四七五万円)

《証拠省略》によれば、原告梅津蝶子は、建物(二)について持分の三分の一を共有していることが認められる。前記5(一)認定の事実によれば、建物(二)の本件爆発当時の残価は少なくとも一四二五万円を下らないから、原告梅津蝶子の本件爆発による財産的損害の額は、その三分の一である四七五万円とするのが相当である。

7  原告江川正美の損害 九一〇万円(請求額 一一六二万円)

《証拠省略》によれば、本件爆発により原告江川正美が居住していた建物(借家)が全焼し、同人が内部に保管していた家財一切が焼失したことが認められる。

《証拠省略》によれば、原告江川正美は、本件爆発当時三七歳であったこと、本件爆発当時の同居家族は、同人のほか三名であり、そのうち未成年が二名であることが認められる。右家族構成を元に《証拠省略》の家財簡易評価表(時価用)に基づいて右家財の時価を算出すると、九一〇万円とするのが相当である。

《証拠省略》によれば、同人は、右建物内に購入価格合計三六〇万円の和服四〇着及び購入価格一〇〇万円の一六ビットパソコン一台を保管していたことが認められるが、前者については購入から六年、後者については四年近く経過していることから、その時価は、その種類及び個数からすれば購入価格から大幅に減少しているといわざるを得ず、これらの価格を別途加算する必要性を見い出すことはできない。

したがって、原告江川正美の本件爆発による財産的損害の額は、九一〇万円とするのが相当である。

8  原告佐竹正行の財産的損害 七二三万六九〇七円(請求額 七九二万円)

(一) 家財損害について 七二〇万円(請求額 七八八万円)

《証拠省略》によれば、本件爆発により原告佐竹正行の居住する建物(借家)が全焼し、その中に保管していた同人所有の家財一切が焼失したことが認められる。

《証拠省略》によれば、原告佐竹正行本人は本件爆発当時三二歳であったこと、本件爆発当時の同居家族は、同人のほか三名であり、そのうち未成年が二名であることが認められる。右家族構成を元に《証拠省略》の家財簡易評価表(時価用)に基づいて右家財の時価を算出すると、七二〇万円とするのが相当である。

(二) 休業損害について 三万六九〇七円(請求額 四万円)

《証拠省略》によれば、同人は、本件爆発当時、日本GT株式会社山形工場に勤務していたこと、本件爆発により現場の後片づけなどの作業のため休業を余儀なくされた結果、給与所得三万六九〇七円を受けることができなくなったことが認められる。

(三) 以上から、原告佐竹正行の本件爆発による財産的損害の額は、七二三万六九〇七円である。

9  原告佐竹富士子の損害 三万七八〇〇円(請求額 四万円)

《証拠省略》によれば、原告佐竹富士子は、本件爆発当時、長井市農業共同組合に勤務していたこと、同人は、本件爆発により、後片づけなどの作業のため、平成二年六月一三日から同月二三日まで休業し、その結果給与所得三万七八〇〇円を受けられなかったことが認められる。

したがって、原告佐竹富士子の本件爆発による財産的損害の額は、三万七八〇〇円とするのが相当である。

10  慰謝料について (請求額 各人について二〇〇万円ずつ)

前記認定のとおり、原告阿子嶋らについては、自宅が全焼し、家財道具が焼失したものであり、原告江川ら及び同佐竹らについては、借家が全焼し、家財道具が焼失したものであり、原告梅津らについては、その居住する家屋に前記の損傷を受けたものであり、いずれもまかり間違えれば人命の危険も存した上、家庭の平穏を侵害されたことによる有形・無形の損害は、前記の財産的損害の填補のみによっては償いきれないものがあるというべきである。右のほか、証拠上認められる諸般の事情を斟酌すれば、右原告らが本件爆発によって受けた精神的苦痛を慰謝するのに足りる慰謝料として、各五〇万円を認めるのが相当である。

11  弁護士費用について

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件爆発と相当因果関係のある弁護士費用として、原告らについては、別紙損害明細表弁護士費用欄記載の金額を認めるのが相当である。

六  以上により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 手島徹 裁判官 石橋俊一 伊東満彦)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例